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奈良地方裁判所 平成6年(行ク)1号 決定

申立人

馬場克己(X1)

井上信子(X2)

相手方

奈良市(Y)

理由

一  申立人ら(本案原告ら)の申立ての趣旨及び理由は別紙一ないし六のとおりであり、これに対する相手方(本案被告)の意見は別紙七ないし九のとおりである。

二  土地区画整理審議会の議事録について

土地区画整理法(以下「法」という)施行令七三条三号にいう「土地区画整理審議会の意見(同意又は不同意の意見を含む。)を記載した書類」とは、土地区画整理審議会が施行者から諮問を受け、又は同意を求められた案件につき審議、議決を経て決定した同審議会の意見(同意又は不同意の意見を含む。)を施行者に対して答申した書類をいうのであって、右の議決をするために同審議会が行った審議の経過、内容等を記載した議事録や会議の資料として利用された書類はこれに含まれないと解されるから、申立人らの主張は採用できない。

三  土地評価委員の意見書

右文書は法八四条及び法施行令七三条各号のいずれの文書にも該当しないから申立人らの主張は採用できない。

四  申立人らの平成五年一一月一九日付け準備書面(ホ)で記述している項目を立証し得る詳細な書類について

右文書がいかなる文書をいうのか特定できないから、右文書の提出を求める申立ては理由かない。

五  平成五年度一部地権者(奈良日日新聞株式会社、近鉄不動産株式会社及び森田春蔵)等の仮換地指定におけるそれぞれの位置、形状、地積、減歩率等が分かり得る重ね図面(南町地域の図面)及びこれに関連する文書について

右申立ての趣旨は、一部地権者につき乙三号証と同様の図面の提出を求めているものと解される。しかし、弁論の全趣旨によれば、乙三号証は訴訟資料のために本訴提起後作成されたものであると認められ、相手方が個々の地権者の仮換地指定における従前の土地と仮換地との位置、形状、地積、減歩率等の関係が分かり得る重ね図を作成しているとは認められず、申立人らが提出を求めている文書が存在することの疎明がない。したがって、申立人らの右申立ては理由がない。また、右図面の関連文書とはいかなるものを指すのか不明であるから、この申立ても理由がない。

六  奈良日日新聞株式会社、近鉄不動産株式会社、株式会社東平及び森田春蔵等の反換地指定における、それぞれの位置、形状、地積、減歩率などのわかり得る、重ね図面の裏付け説明の出来る換地設計書について

1  右の申立ての趣旨につき検討を加えるに、相手方が従前地の町又は字名、地番、登記簿地積、基準地積及び権利指数並びに仮換地の街区番号、画地番号、地積及び評価指数を記載した換地設計書(乙二一、二二の1、2等)等を作成していることを考慮すると、申立人らは右換地設計書の提出を求めているものと解される。なお、奈良日日新聞株式会社、近鉄不動産株式会社、株式会社東平及び森田春蔵以外の者については、その特定がされていないから、その余の地権者についての右換地設計書の提出を求める申立ては理由がない。

2  右1の換地設計書が法八四条一項にいう「換地計画に関する図書」に該当するか否かについて判断する。

(一)  換地計画においては、従前地と換地の地積及び権利価額等を記載した各筆換地明細を定めなければならないが(法八七条二号、法施行規則一三条、別記様式第一)、「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」(法九八条一項前段)には、本件のように換地予定地的仮換地の指定処分をするときでも、換地計画に基づくことを要しないものと解されるから(最高裁判所第三小法廷昭和六〇年一二月一七日判決・民集三九巻八号一八二一頁)、右各筆換地明細は定める必要はない。

しかし、土地区画整理の実務においては、事実上将来の本換地を見越した換地予定地的仮換地指定を行い、工事がほぼ完成に近づき、諸々の要素が確定した時期に、換地計画を作成して換地をするのがほとんどであり、原則として仮換地計画のとおり換地計画も行われることになる。そして、このような換地予定地的仮換地指定の場合に法八四条一項にいう「換地計画に関する図書」から仮換地指定に関するものを除外すると、利害関係人は工事がほぼ完了するまで換地計画の情報を得ることができず、同条一項、二項の趣旨を没却してしまうことになる。したがって、法九八条一項前段により換地計画に基づくことなく換地予定地的な仮換地の指定処分をする場合には、各筆仮換地明細書が基礎となって各筆換地明細が作成されることになる(工事が予定されたとおり施行されれば、原則として仮換地図及び各筆仮換地明細書のとおり本換地指定がされることとなろう)以上、従前地と仮換地の地積及び権利指数、評価指数を記載した各筆仮換地明細書も法八四条一項にいう「換地計画に関する図書」に該当するというべきである。

(二)  本件土地区画整理事業における仮換地も換地予定地的仮換地であるから、右1にいう換地設計書も法八四条一項にいう「換地計画に関する図書」に該当するというべきである。

3  法八四条二項の閲覧請求権が民訴法一三二条二号にいう「閲覧を求めることを得るとき」に該当するか否かについて検討する。

(一)  〈1〉現行法が挙証者と文書所持者との間の私法上の契約関係を予定して制定されているものと解されること、〈2〉挙証者が公法上の閲覧請求権等を有する場合には、自らそれを行使すれば目的を達することができるのであって、文書提出命令を求め得ないとしても、挙証者に実質的な不利益はないこと、〈3〉民訴法三一九条ただし書が、当事者が文書の所持者に対し法令上文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合には送付嘱託の申立てができないとしているように、当事者が交付請求権を有している文書については当事者が直接その交付を受けた上で書証として裁判所に提出するのが本筋であること、〈4〉官公署が文書の閲覧等を拒否している場合には、その適否については本来別個の行政訴訟で決着をつけるべきであって、単なる民事訴訟の付随手続である文書提出命令手続において、簡易な審尋手続によって公法上の閲覧請求権等の有無を判断することは、文書提出命令制度自体が予定していないと考えられること、などを理由として、民訴法三一二条二号にいう「閲覧等」には公法上のものは含まれないとする見解がある。

(二)  しかし、〈1〉民訴法には私法上の引渡又は閲覧請求権のみに限定する文言はないこと、〈2〉文書の引渡等の請求権を有する場合にその行使をすれば目的を達成できると考えられることは、私法上の請求権の場合も同じであること、〈3〉右(一)の見解のように民訴法三一二条二号の適用を私法上閲覧請求ができる場合に限定するとしても、本訴は行政事件訴訟であり、同号を行訴法七条で準用する場合にこれを私法上の閲覧請求権に限定する必要はなく、本件のような抗告訴訟においては、当事者が私法上の引渡又は閲覧請求権を有する場合を想定し難いこと、〈4〉官公署が文書の閲覧等を拒否している場合には、その拒否処分の取消訴訟等の決着を待っていたのでは、当該行政訴訟の審理に間に合わなくなる可能性を否定できない上、土地区画整理法八四条が「換地計画に関する図書」を利害関係人に閲覧させ、もって、その権利を保護しようとした趣旨並びに「換地計画に関する図書」が、元来当該行政処分の適正・公平を担保するために作成されるものであることなどからすると、法八四条二項の閲覧請求権につき行訴法七条の準用する民訴法三一二条二号の適用を否定する理由はないというべきである(なお、本件において公法上の閲覧請求拒否処分かされた形跡はない)。

(三)  したかって、土地区画整理法八四条二項により閲覧請求ができる場合には行訴法七条、民訴法三一二条二号により文書提出を求めることができると解される。

七  結論

よって、奈良日日新聞株式会社、近鉄不動産株式会社、株式会社東平及び森田春蔵の仮換地指定の従前地の町又は字名、地番、登記簿地積、基準地積及び権利指数並びに仮換地の街区番号、画地番号、地積及び評価指数を記載した換地設計書についての文書提出命令の申立ては理由があるからこれを認め、その余の申立てはいずれも理由がないからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 近田正晴)

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